アゼライン酸、鍵を握るのは“溶かし方”
20%クリームと同程度の痤瘡への有効性を示す低刺激セラム剤型を確立
2026年9月8日
ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:瀬木英俊)は、アゼライン酸(以下、AZA)の有効性を生かしながら、刺激や使用感にも配慮した製剤の実現を目指し、AZAを中和することなく製剤中に溶解させる技術を開発しました。
AZAは尋常性痤瘡に対する選択肢の一つとして推奨される成分です。一方、水にも油にも溶けにくく、高濃度での溶解製剤化が難しい成分として知られ、従来は、AZAをクリーム中に「分散」させる方法が広く用いられてきました。また、溶解性を高めるために、誘導体化やアルカリ添加による中和なども行われていますが、これらの方法ではAZA本来の機能が低下する場合があります。今回、本技術を開発するとともに、その技術を用いたAZA3%配合溶解型セラムと、従来のAZA20%配合分散型クリームについて、12週間の臨床試験による評価を行いました。その結果、AZA3%溶解型セラムは、AZA20%分散型クリームと同程度の総皮疹数の減少を確認し、使用初期のかゆみ・刺激感が少ない傾向が確認されました。また、AZA3%溶解型セラムは、AZA20%分散型クリームと比較して皮膚への浸透効率が高く、低濃度でありながらアクネ菌に対して高い殺菌効果を示しました。
本研究内容は、第44回日本美容皮膚科学会総会・学術大会(2026年8月1日)において発表されました。
図1:低濃度アゼライン酸セラムの特徴
研究成果のポイント
- 難溶性のアゼライン酸(AZA)を刺激に配慮しながら中和することなく溶解させる製剤技術を実現
- 12週間の臨床試験で、AZA3%配合溶解型セラムにおいてAZA20%配合分散型クリームと同程度の総皮疹数の減少を確認
- 試験期間中に試験品との因果関係が認められた副作用はなく、使用初期のかゆみ・刺激感についてもAZA3%溶解型セラムで少ない傾向あり
- AZA3%溶解型セラムは、AZA20%分散型クリームと比較して、AZAの皮膚への浸透効率が約4倍
- AZA3%溶解型セラムは、AZA20%分散型クリーム同様、アクネ菌に対して高い殺菌作用を持つ
研究の背景
アゼライン酸の「有効性」と「日常的な使いやすさ」の両立を目指して
アゼライン酸(AZA)は、尋常性痤瘡に対する選択肢の一つとしてガイドライン1)でも推奨されており、角化正常化作用、抗菌作用、抗酸化作用、チロシナーゼ活性阻害作用、抗炎症作用などが報告されています。
AZAは水にも油にも溶けにくい難溶性の成分で、高濃度のまま溶解させて製剤化することが難しいという課題があります。そのため、従来の高濃度AZA製剤では、AZAを微細な粒子としてクリーム中に「分散」させる方法が広く用いられてきました。20%AZA配合クリームでは日本人の尋常性痤瘡に対する有効性と安全性が確認されているものの、刺激や使用感の面で、日常的な使いやすさには改善の余地がありました。
そこで、AZAの有効性を生かしながら、刺激や使用感にも配慮した製剤を目指し、単なる低濃度化ではなく、低濃度でもAZAの特性を引き出す製剤設計に着目しました。
AZAの特性を生かす鍵は「中和度」
AZAは弱酸性で、pH条件によって電離状態が変化します。殺菌作用は低pH条件で高くなることが報告されており2,3)、当社の検討でも、中和度が高くなるほど皮膚への浸透性が低下することを確認しました。一方、AZAは中和すると溶解しやすくなるため、中和せず溶解させることが技術的な課題でした。
そこで当社は、AZAを主として中和することなく製剤中に完全溶解させる技術を開発。低濃度でありながら皮膚への効率的な新党特性や殺菌作用などの特性を生かし、刺激にも配慮したセラム製剤の実現に至りました。
図2:AZAの配合状態と製剤特性のイメージ
1) 尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023
2) Feng X et al: Clin Cosmet Investig Dermatol 17: 2359, 2024
3) Bojar RA, et al. J Antimicrob Chemother. 1994;34:321–330.
結果
結果1:AZA3%溶解型セラムで、12週間後に総皮疹数が減少
軽症~中等症の尋常性痤瘡を有する28名を対象に、12週間の評価者盲検無作為化左右比較試験を実施しました。対象者の左右の半顔に、AZA20%分散型クリームまたはAZA3%溶解型セラムを、それぞれ1日2回使用しました。その結果、AZA3%溶解型セラムはAZA20%分散型クリームと同程度まで、総皮疹数が減少することを確認しました。また、AZA3%溶解型セラムは使用開始から比較的早い時期においても皮疹数が減少し、4週後の総皮疹数の変化率ではAZA20%分散型クリームと比較し、より大きな減少が認められました。
図3:総皮疹数の変化
<試験方法>
18~39歳の軽症~中等症の尋常性痤瘡を有する28名を対象とした評価者盲検無作為化左右比較試験。左右の半顔にそれぞれAZA20%分散型クリームまたはAZA3%溶解型セラム約0.5gを、1日2回、12週間使用しました。皮膚科医による皮疹数評価等を実施しました。
試験期間:2026年2月5日~5月15日
研究監修医師:山崎 研志先生
(A LOOP CLINIC & LAB院長、皮膚科専門医)
倫理審査委員会:うえのあさがおクリニック倫理審査委員会
結果2:副作用の発現はなく、使用初期のかゆみ・刺激感も少ない傾向
12週間の試験期間中、試験品との因果関係が認められた副作用はなく、中止・脱落例もありませんでした。塗布後のかゆみおよび刺激感について被験者自身が評価したところ、いずれの製剤でも使用期間が長くなるとともに「感じなかった」と回答する方が増加しました。特に2週間使用時点で、AZA3%溶解型セラムはAZA20%分散型クリームと比較し、「かゆみを感じなかった」と回答した方の割合は23.0ポイント、「刺激感を感じなかった」と回答した方の割合は18.4ポイント高くなり、AZA3%溶解型セラムは使用初期の刺激を感じにくい傾向がみられました。本技術により刺激に配慮しながら、AZAの有効性を生かせる可能性が示されました。
結果3:AZA3%溶解型セラムで、皮膚へのAZA浸透効率が約4倍に
ヒト皮膚を用いて、AZA20%分散型クリームとAZA3%溶解型セラムの皮膚への浸透性を比較しました。製剤塗布24時間後に、角質層、表皮・真皮およびレシーバー液中のAZA量を測定しました。その結果、塗布したAZA量のうち、皮膚(角質層、表皮・真皮およびレシーバー液)の角質層以降に移行したAZAの割合は、AZA3%溶解型セラムでAZA20%分散型クリームの約4倍となりました。
このことから、AZAを中和することなく溶解させることで、低濃度でもAZAを効率的に皮膚へ浸透させられる可能性が示されました。
結果4:アクネ菌に対する高い殺菌効果を確認
AZA3%溶解型セラムと20%分散型クリームについて、アクネ菌に対する殺菌力を評価しました。その結果、AZA3%溶解型セラムは20%分散型クリームと同等の殺菌効果を示しました。低濃度でありながら、AZAを溶解状態で配合することで、その特性を生かした製剤となっていることが示唆されました。
図5:各製剤のアクネ菌に対する殺菌力
<試験方法>
各製剤に菌液を混合し、一定時間後に回収しました。菌が生育可能な培地上で培養し、形成されたコロニー数から残存菌数を評価しました(ロート製薬研究所実施)。
今後の展望
今回の研究から、難溶性であるAZAを中和することなく刺激に配慮しながら溶解させる製剤技術によって、低濃度でありながらAZAを効率的に皮膚へ浸透させ、その特性を発揮できる可能性が示されました。さらに、軽症~中等症の尋常性痤瘡を有する方を対象とした臨床試験において、AZA3%溶解型セラムはAZA20%分散型クリームと同程度まで皮疹数が減少し、かつ使用時において刺激を感じる方が少ないという結果が得られました。また両試験品との因果関係が認められた副作用はありませんでした。
AZAを「高濃度で配合する」という従来の考え方だけでなく、成分の状態をコントロールし、浸透効率を向上しつつ刺激を低減するという新たな製剤設計の可能性を見出しました。当社は今後も、成分そのものが持つ力を引き出しながら、お客様が日々使い続けやすい製剤の開発を目指し、研究を進めてまいります。
用語説明
※1 アゼライン酸(Azelaic Acid):天然にも存在する飽和ジカルボン酸の一種。角化正常化作用、抗菌作用、抗酸化作用、チロシナーゼ活性阻害作用、抗炎症作用などが報告されています。海外では痤瘡や丘疹膿疱型酒さなどに用いられており、日本では化粧品成分として使用されています。
※3 分散型製剤:成分を溶かさず、微細な粒子として製剤中に均一に分散させた製剤。本研究で比較対照としたアゼライン酸20%配合クリームは、この分散型に該当します。
※4 溶解型製剤:成分が製剤中に溶けた状態で存在する製剤。本研究のアゼライン酸3%配合セラムでは、アゼライン酸を中和することなく、溶解した状態で配合しています。
※5 アクネ菌(C. acnes:Cutibacterium acnes):皮膚に存在する常在菌の一つで、尋常性痤瘡との関連が知られています。