伝統的薬用素材である冬虫夏草が脳内の神経回路形成とエネルギー代謝回転を活発化することを示唆

研究開発

伝統的薬用素材である冬虫夏草が脳内の神経回路形成とエネルギー代謝回転を活発化することを示唆 -三重大学とロート製薬の共同研究-

2026年9月28日

ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:瀬木英俊)は、ロートグループ総合経営ビジョン「Connect for Well-being & Longevity」の実現に向け、自然界に存在する素材の多様な機能や生命の仕組みを科学的に解き明かし、新たな価値として社会に届ける「フィトサイエンス構想」を推進しています。
このたび、国立大学法人三重大学(所在地:三重県津市、学長:伊藤正明)との共同研究(研究代表者:大学院地域イノベーション学研究科 西村訓弘教授、研究担当者:大学院医学系研究科・ゼブラフィッシュリサーチセンター 島田康人講師ら)にて、伝統的薬用素材である冬虫夏草(Hirsutella sinensis菌糸体)の長期投与が、脳内の神経回路形成に関わる遺伝子発現と、脳内エネルギー代謝に影響を与える可能性を明らかにしました。本研究成果は、第43回和漢医薬学会学術大会(2026年8月23日)にて口頭発表されました。
本研究は、伝統的薬用素材である冬虫夏草が脳機能に影響を与える分子・代謝基盤の一端を示すものであり、今後も「ロンジェビティ」サイエンスの社会実装ができる製品開発を目指し、研究成果を積み重ねていきます。

研究成果のポイント

  • 伝統的薬用素材である冬虫夏草(Hirsutella sinensis菌糸体)の長期投与による脳・神経への作用を検証
  • 脳の遺伝子発現を網羅的に解析した結果、神経回路の形成に関わる遺伝子発現が増加することを確認
  • 脳の代謝産物を網羅的に解析した結果、脳のエネルギー産生に関わる解糖系の代謝物が増加し、ATPの利用と補充が活発に繰り返される「脳内エネルギー代謝の回転率が高い状態」を示唆
  • これらの結果から、冬虫夏草が、脳内神経回路の「形成・維持」と、それを支える「エネルギー基盤」という複数の側面から脳・神経系に作用する可能性を示唆

研究の背景

冬虫夏草は、中国・チベット高原を中心に分布する昆虫寄生性の菌類で、古くから滋養強壮や疲労回復などを目的に利用されてきた伝統的薬用素材であり、現在では免疫調整、抗酸化など多様な生理活性が研究されています。当社は2025年、冬虫夏草が神経細胞およびゼブラフィッシュの中枢神経系機能をサポートする可能性を報告しました※1
が、その作用を支える脳内の分子・代謝メカニズムは十分に明らかになっていませんでした。
そこで本研究では、冬虫夏草の長期投与後の脳について遺伝子発現と代謝物を網羅的に解析し、神経回路形成およびエネルギー代謝への影響を検討しました。

※1:伝統的薬用素材である冬虫夏草(Hirsutella sinensis菌糸体)に神経突起伸長・抗不安・学習機能向上作用を確認

結果

ゼブラフィッシュに伝統的薬用素材である冬虫夏草を6か月投与後、脳の遺伝子発現を解析しました(RNA-seq解析)。冬虫夏草投与群では、神経細胞同士のつながりの形成や情報伝達、神経回路の組み替えに関わる遺伝子(HTR2B、SHANK1、ROBO1、SEMA6B、ERBB3など)の発現増加が認められました(図1)。
これらの結果から、冬虫夏草の長期投与により、神経回路を形成・維持しやすい方向に遺伝子発現が変化する可能性が示されました。

図1:冬虫夏草の長期投与で、神経回路形成に関わる遺伝子の発現が増加

<試験方法>
7か月齢の野生型ゼブラフィッシュ(雌雄各半数)に、冬虫夏草粉末を500mg/kg体重/日の用量で6か月間経口投与しました。投与後に全脳を回収し、脳の網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq解析)を行いました。(三重大学実施)

また、脳内の代謝物を調べるメタボローム解析を行ったところ、グルコースからエネルギーをつくる「解糖系」に関わる代謝物が増加していました。具体的には、解糖系の中間代謝物であるグルコース6-リン酸が1.4倍、フルクトース1,6-ビスリン酸が1.8倍、ジヒドロキシアセトンリン酸が2.1倍に増加しました(図2-①)。解糖系の上流から下流にかけて中間代謝物が一貫して増加したことから、グルコースをエネルギーや生合成材料へ変換する代謝が活発な状態になっている可能性が示されました。また、細胞の主要なエネルギー源であるATP量は対照群と同程度に維持される一方、細胞がエネルギーを利用した後に生じるADPは1.7倍に増加しました(図2-②)。
これらの代謝物量の変化は、エネルギーを単に蓄えるのではなく、産生・利用・再生というサイクルが活発に回る、すなわち脳内のエネルギー代謝が活発な状態を示唆しています。

図2:冬虫夏草の長期投与で、脳内エネルギー代謝の回転が活発に

<試験方法>
対照群および冬虫夏草投与群の全脳から代謝物を抽出し、CE-TOFMS(陽イオン・陰イオンモード)で網羅的に測定しました。各代謝物の相対量を群間で比較し、KEGG経路に基づく代謝経路解析を行いました。(三重大学実施)

今回のRNA-seq解析とメタボローム解析から、伝統的薬用素材である冬虫夏草は、脳内の神経回路形成に関わる遺伝子発現に影響するとともに、神経回路の活動や再構築を支えるエネルギー代謝にも作用する可能性が示されました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

神経回路の形成に関わる遺伝子の発現が高まり、脳内エネルギーの産生・利用・再生サイクルが活発に回る可能性が示されました。これらは、神経回路の活動や変化する力(可塑性)、機能維持の仕組みを考える上で重要な知見になります。今回の結果から、伝統的薬用素材である冬虫夏草は、神経回路の「形成・維持」、そしてそれらを支える「エネルギー基盤」という複数の側面から、中枢神経系に作用する可能性が示されました。
本研究は、伝統的薬用素材である冬虫夏草の中枢神経系に対する作用を、遺伝子発現と代謝の両面から、科学的に捉えた研究です。今後、作用に関わる成分や標的分子を明らかにすることで、科学的根拠に基づく素材開発や製品設計につなげ、さらには脳の健康を軸としたウェルビーイングの実現に貢献することを目指します。

特記事項

本研究成果は、第43回和漢医薬学会学術大会(2026年8月23日)にて口頭発表されました。

学会名:第43回和漢医薬学会学術大会(2026年8月22~23日)
タイトル:“ゼブラフィッシュを用いた冬虫夏草長期投与による抗不安・学習機能向上作用と脳内代謝シフトの解明”
島田 康人1,2、新海 拓郎2,3、中井 美早2,3、奥西 遥香4、臧 黎清2,3、深田 一剛2,5、勝崎 裕隆2,4、西村 訓弘2,3
1. 三重大学大学院医学系研究科統合薬理学分野、2. 三重大学ゼブラフィッシュリサーチセンター、3. 三重大学大学院地域イノベーション学研究科、4. 三重大学大学院生物資源学研究科、5. ロート製薬株式会社